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みんなの受験体験談

目標を実現させる前向き思考を持とう

奥野 浩子
第43回2016年秋季 準2級合格Le Ali 27号

 オペラに携わる仕事をして35年。しかしイタリア語を習い始めたのはここ4年のこと。楽譜上の古いイタリア語を読むには既に出版されている対訳本があれば十分だし、イタリア語もドイツ語も、フランス語もロシア語も歌唱するための外国語だと認識し、コミュニケーションのツールだとは考えたこともなかった。ところが最近は外国人を招いても通訳不在のプロダクションであったり、たとえ通訳のいる現場でも、自分の耳で直接彼らの言葉を聞きたいと思うようになり、勉強を始めた。もっとありていに言えば、一度に5人のイタリア人が来日するプロダクションに参加することが決まり、慌てて勉強を開始したのだ。しかし40歳代後半で始めた勉強はなかなか頭に入らない。"習った端から忘れるお年頃"にどっぷり浸っていることを痛感した。レッスンを録音して繰り返し聞いても毎回新鮮に驚くことができる! さすが"お年頃"である。

 勉強を始めて9カ月、"彼ら"はやってきた。蓋を開ければイタリア人は2人だけだったが5人ともマルケ州ペーザロゆかりの人物で、イタリア語が共通言語だった。彼らと必死で過ごした3週間、自分の意見を伝えることは困難だったが、彼らの言いたいことはかなり理解することができた。そうなると自分の実力を見極めたくなり検定に興味がわいた。5級に加え4級も受けてみようかなと学校に相談したところ「『作文を勉強して3級を受けてみたら?』とA先生が言っていたわよ」と驚きの答えがかえってきた。そこで思い切って15年秋季に4級と3級を受験し、合格。勉強を始めて1年3カ月で3級まで一気に通過した。検定のための勉強を一切せずに受験するという、イタリア語検定の難しさを知らないままの合格だった。また後々聞けば学校側の予想は「4級は受かるだろうが3級は難しいだろう」ということだったようだ。今となればあの頃の自分はとても前向き志向だったのだと回顧する。思ってもみなかった3級が視野に入り、「難しい」ではなく「受かるかも」と未来が大きく開けたのだ。勿論その為には自分を信じられるだけの勉強量と、知る楽しさと喜びが必要だった。

 また受験前に知人のブラジル人ピアニストから「語学の学習ならその国の言語で日記を書いたらいいよ」と勧められた。彼は7カ国語を操り世界中を飛び回っている。

 私は早速書き始めた。作文は嫌いではないが日記は面倒で、若い時には「恋をしたら日記を書く!」と誰かの受け売りをした挙句に結局書くこともなかった(笑)。だが実際、日記を書いて添削してもらうと"お年頃"の私でも、ノートに赤ペンで記録が残ることで語彙も増え、言い回しも徐々に使えるようになるので非常に有効だった。翌年の秋に準2級を受験。ここで講師陣が検定の為の応援をしてくれた。3級は実力で受かっても準2級以上は「検定の為の勉強」が必要だ、と受験勉強につきあってくれた。文法の出題には規則性があることや長文読解の解き方など、前年には気づかなかったことを教えてもらい試験に臨んだ。しかし自己採点は散々。文法の出来の悪さに加え、作文にのめり込みすぎて清書の時間が足らず最後まで書き終えることができなかった。さらに時折外国人と仕事をするので苦手ではない筈のアスコルトも今一つだった。そもそも腕時計を忘れた自分がバカだと己を罵った。だが、結果は合格。途中で終わってしまった作文の得点が意外に高くて助けられたのだ。書き続けた日記と講師陣のおかげである。

 2017年には日伊学院主催の「作文コンテスト」に応募。2級作文でまさかの最優秀賞受賞。これで作文に対する不安はほぼなくなった。とはいえ、普段のレッスンで本筋から逸脱した作文を書いて注意されることもしばしば。テーマに沿って他人の話を引用したら、「質問文に『Secondo te(あなたの考えでは)……』とあるので0点!」といったうっかりミスも。初歩の初歩である「質問を正しく理解する」ことを忘れてはならないと教えられた。

  昨年は仕事の関係で検定を受験できず、またしても一人のイタリア人指揮者との仕事に明け暮れた。2年前と違い、仕事の内容について議論することもあれば、通訳の居ない日にはその代わりをすることもあった。彼は本番の少し前に妻のノラちゃんを来日させ「ヒロコはイタリア語ができるから彼女といなさい」とノラが寂しくないように気遣った。だが仕事で同じ目的をもって話すことと世間話は違う。残念ながら私はノラとは少ししか話すことができなかった。まだまだだ。ただ彼は私に「打ち上げの会費は誰に払うの?」と、いかにも同僚らしい質問をした。この質問を私にしたのは「私のイタリア語が許容範囲だと彼が認めたのに違いない!」と、ここでも前向きに考えた。次の目標は検定2級合格と来年来日する複数のイタリア人との仕事を成立させること。その為に「出来るイメージ」を持って「前向きに」勉強を続けようと思う。

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