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エッセー集 イタリア散歩道

イタリア語の揺れ―pronunciareとpronunziare

菅田 茂昭
早稲田大学名誉教授(言語学・ロマンス語学)Le Ali 10号

イタリア語で《発音する》は、pronunciare [プロヌンチャーレ]か、それともpronunziare [プロヌンツィアーレ]と言うべきか、正確には一体どちらかと戸惑われる方もあるでしょう。派生名詞にもpronuncia《発音》とpronunziaがあります。現在-cia形の方が優勢になっていますが、標準イタリア語としていずれも立派に通用するものです。同様にannunciare《知らせる》と並んでannunziareがあり、その名詞形にannuncio《告知》とannunzioがあります。一方Annunziata《お告げの聖母マリア》はzで、Annunciazione《受胎告知》では普通cが用いられるのには要注意。

こんな揺れを許さない唯一の例は、《ローマ教皇庁大使》の場合で、つねにnunzio [ヌンツィオ]と呼ばれています。ところが驚くべきことに、この形式を含む単語に限ってなぜか揺れが予想されるのです。

最初の例はラテン語に遡ると、PRONUNTIAREです。イタリア語では一般にこのTは、口蓋化して[ts]音になり、zで表わされています。ラテン語のCも同じ位置で口蓋化して[tʃ]音になりますが、綴りはそのままです。このラテン語に存在しなかった、二つの破擦音の間で、なぜか部分的に揺れが生じたようです。音素論的対立の欠如(重ね子音ですが、caccio《私は狩りをする》:cazzo!《ちくしょう!》くらいのペアしかない)が揺れを支えているのかも知れません。日本語でも動詞《待つ》の活用に、[t]、[ts]、[tʃ]が現れることに改めて気付いたところです。

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